相打ち

夕べも、「ここを動かない。後、7年は生きたい」という夫と険悪な雰囲気になった。 難聴がひどく、補聴器も役に立たない夫の耳元で大声を出していると、だんだん怒りがつのってくる。 冗談なのだろうが、連れ合いを亡くしている二人の友人たちは、「ご主人が…

謎が解ける時

民間の不動産屋は高齢者には住まいを貸さない。 何事も例外はあるので、大金を積むとか、社会的に信用できる人の紹介などがあれば例外として認められるかもしれないが。 高齢者の救いの神は、都市整備公団で、家賃二か月分の頭金を払い、必要書類をそろえ、2…

胃腸人

「まだ、ウンコ出てない」 夫の朝の第一声。 一日おきの透析で、毎回2キロから3キロの水分を抜くため、夫は下剤なしでは排便できない。 透析日の夕食の前に下剤を飲むと、深夜か翌日早朝、便が出る。 時々、それが遅れると、朝、下剤を追加する。 食べるだけ…

メモ

夫と娘、孫娘、私の4人で喫茶店で過ごした後、隣の新装開店したパン屋に行った。 運転席の娘と後部座席の夫は車内に残り、孫娘と私が買い物係になった。 娘は、孫娘に、4種類の総菜パンと3種類のスイーツ系のパンを口頭で頼んだ。 パン屋で順番を待つ間や注…

地図に恋して

その駅の東口を出て、ショッピングセンターを右手に見ながら大通りを直進。 公園に突き当たったら右折。 公園に添って進み信号で左折。 真っ直ぐに信号を三つ、ファミリーマートを過ぎ、郵便局のそばを右折。 保育園を右手に見て左折。 直進すれば目当ての地…

真夜中の手当

目が覚めたら、右目に異常を感じた。 まつ毛やゴミなどが入った時のような、ざらついた感じがする。 応急手当として、両手をこすり合わせ、暖まった手のひらを両目に当てる。 何度もくりかえしたが、楽にならない。 そっと目を開けると視力には異常がない。 …

身体観

心臓の血管拡張手術を受け、ペースメーカーをつけ、これ以上手術はしないと言っていた夫が、心変わりをした。 循環器科の医師から、「心臓の弁が硬くなり正常に作動していない。このままでは透析ができなくなる」と言われ、手術を受けると言いだした。 10年…

倍音

孫娘は、小学5年生から中学、高校と吹奏楽ひとすじだった。 ゆうべ、彼女と、私の耳の話をした。 私「デビュー当時から好きだった人の声が耳障りになってきたのよね」 孫娘「なんで?」 私「多分、耳が遠くなって倍音が聞き取れなくなって、彼の微妙な声の良…

謝らないでっ!

「謝らないでっ!」 昨日、いつもよりさらに激しい口調で娘から言われた。 彼女は、中学二年の夏休みに茶髪にしたのをきっかけに、いわゆるマイルドヤンキーへの道を突っ走った。 50歳になった今も、近しい者に対しては口調が荒い。 あらゆる場面で、トラブ…

夢を壊す人

子どもたちが小さかった頃、私がイベントなどに参加しようとわくわくしていると、二人のうちどちらかが体調不良になることが多かった。 こちらも作戦を立てて、当日の朝まで言わないことにした。 30代は、消費者団体の活動に入れ込んで、毎日のように出歩い…

衣類

以前、ユーチューブで、シャツを裏返しに着ている著名な学者をみた。 「忙しいので着るものに手間をかけたくない。裏表の区別がない衣類を作ってほしいので、お願いの意味をこめてこうしている」とのことだった。 昨日、あるメーカーが、裏表の区別がないTシ…

青空介護

知人が特養に入っている。 彼女はアルコール依存で肝臓を壊し、買い物依存もあるため、家族から見放された。 生活保護を受け、公営住宅に住んでいたが、家事をしないので部屋はゴミだらけになり、65歳になると速攻、特養に入れられた。 肝硬変は薬でなだめ、…

愚痴

亡き母は、極貧、父の癇癪に耐え、激することなく淡々と、何事も工夫して暮らしていた。 それでも、二人の娘(私の姉たち)が自活したあと、伯母(母の姉)にこんな話をしていた。 「この子を(幼かった私)連れて家を出て、旅館の住み込みでもしようかしら…

冒険したくない人

昨日は、夫、娘、孫娘といっしょに、海辺の、サービス付き高齢者住宅の内覧に行った。 エレベーターが止まった時も困らない、1階の部屋を申し込んでいた。 運よく、空きが出たと連絡が来て、さっそく見に行った。 部屋はバリアフリーになっていて、緊急時の…

先生

夏になると5時には起きて、涼しいうちに散歩をする。 寒い間は、7時まで床の中にいる。 起きると、電気やガスなど使い、光熱費が発生するので、節約のためである。 今朝は例外で、寒いけれど5時に床を離れた。 引っ越し気分が盛り上がってきているせいかもし…

脳は、その瞬間には一つのことしか考えられないのだと、聞いたことがある。 今までは、願い事が叶うようにと、引き寄せの法則など、やや、怪しげな方面のことを考えていることが多かった。 変化が欲しいと願っていたから。 少しの間海の近くに住んでみたいと…

脅迫

現在住んでいる団地の排水管工事が始まった。 築40年以上なので、水回りを大々的にメンテナンスする。 室内工事も一週間ほどあるため、その間は旅行でもすればいいのだが、夫の透析が問題だ。 国内外、都市部なら透析施設はあるので、「海外でも紹介しますよ…

カート

十年ほど前、右肩、右足が痛くなった。 整体の先生から、「身体の右側に負担がかかっているから、荷物は背負ったほうがいい」とアドバイスを受けた。 手提げ袋ではなくリュックにして、スーパーマーケットでも、カートを利用するようになった。 半年ぐらいで…

キャラメル・パパ

早朝、ラジオで歌番組を聞いていたら、ある言葉が飛び込んで来た。 自分が大昔に書いた話のタイトルによく似た言葉だった。 私にとっては初耳で、完全にかぶっているわけではないし、私がパクったわけでもないから、冷汗をかくようなことではない。 偶然、似…

野生

スーパーマーケットのレジで、購入品のチェックを受けていた。 すぐそばの精算機の前で、「日本人は、どうしてこんなに真面目なんだろうね」と、言う声がした。 レジの操作をしている中年女性が、「外したいんですけど、上からのお達しで」と相槌をうつ。 さ…

裏道

裏道を探すのが得意な人がいる。 渋滞を避けるためだというが、ゲーム感覚で楽しんでいるように見える。 乗せてもらうと、新しい景色が展開し、わくわくする。 彼女の連れ合いは、「マジ、近道なの? 時間短縮になってんの?」と、笑う。 裏道好みのドライバ…

白い生活

昨日から、夫の透析を受ける時間が四時間から五時間に延長された。 週三回、一回五時間、人工腎臓装置に助けられて暮らす。 透析のほかにも、ペースメーカーをつけているので、心臓の機能をチェックするために、別の病院にも通う。 高齢者が病院通いをするの…

分類

「あの人は怒りっぽいよねー」といったりするけれど、その人だって、起きている間中、あるいは、夢の中まで怒っているわけではない。 孫娘はのんびり屋だと言われることが多いけれど、「焦ることだってあるよ」と、いう。 家のすぐ近くのスーパーマーケット…

最後に食べるもの

父は、93歳で亡くなる前、カボチャの煮物を食べた。 遠出が辛くなるまで魚の行商をしていて、魚は自分で調理して、朝昼晩食べていたが、寝込んでからはいらないと言った。 父は癇癪もちで気難しかった。ケガで入院した時も、「あの人もイヤ、この人もダメ」…

お金

亡き父母は、敗戦間際に、母方の伯母を頼って疎開した。年子の姉たちは女学校から男女共学の新制高校に転校した。その時三歳だった私には、敗戦時の記憶はない。 疎開先は山奥の村で、父は魚の行商、母は和裁をしていたが、極貧生活だった。 伯母の家は農家…

徒歩

近所の家の娘さんが都内に通勤していた頃、家まで歩いて帰る体験をしたという話を聞いた。基本的に、線路沿いの道を歩いたということで、「建物が崩壊したり火事が起きたりする地域から何とか抜け出せて、途中にある鉄橋や橋が崩落しなければ、歩いて帰れる…

ガラス張り

昨日は暖かく体調も良かったので、少し遠くまで散歩した。40年ほど前、引っ越してきてから、団地周辺を散歩しているが、畑や竹林、梅林はどんどん宅地化され、戸建て住宅やアパート、マンションが立ち並んでいる。 そんな住宅街の中に、ガラス張りの小さな店…

ばあや

社交的ではないので、友人は4人しかいない。 そのうち二人がご主人を亡くし、広い住居に独り暮らしである。 なぜか二人とも、「ご主人といっしょでいいから、引っ越しておいで」と誘う。 夫にその話をすると、「老人が助け合って暮らすのはいいことだけど、…

今、が問題

ラジオの深夜放送を拝聴して元気をもらっている。 恵まれた環境で育ち、学問や芸術分野で花開き、大勢の人の役に立っている人。 逆境を逆手に取り、社会活動やビジネスに生かした人。 ひたすら好きなことを追求して、充実した人生を過ごした人。 共通するこ…

夫が心臓の治療を受けているので、経過観察のための検診があり、付き添いをした。 タクシーを呼び、家を午後二時半に出て病院に三時前に着く。予約なのに、受付をしてから待つこと二時間、受診時間は三分。 次回の検査の予約を取るために30分待つ。書類を受…