地図に恋して

その駅の東口を出て、ショッピングセンターを右手に見ながら大通りを直進。

公園に突き当たったら右折。

公園に添って進み信号で左折。

真っ直ぐに信号を三つ、ファミリーマートを過ぎ、郵便局のそばを右折。

保育園を右手に見て左折。

直進すれば目当ての地点に到着。

 

駅から約1キロ、私の足で20分ぐらいか?

 

繰り返し繰り返し地図を眺め、道順を頭にたたきこむ。

「地図と現地は違う」

60年ほど前、十代の終わりに街歩きを始めたころ、身にしみて感じた。

迷うのが楽しい。迷うから楽しい。

 

見知らぬ街を夕暮れまで歩き続け、住宅街に迷い込む。

家々に明かりがともり、夕餉の支度をするにおいがする。

家なき子の気持ちになってみる。

帰る家があるからできる遊び。

 

この十日ほどのあいだに、3回、海辺の街に行き、目当ての物件を内覧して、昨日、仮契約をした。

行くたびに、それぞれの建物の周辺を歩き回って過ごした。

 

帰宅しても、心身の一部は、見知らぬ街をさまよっている。

40年居着いてしまったこの場所から抜けだせるのだろうか?