野生
スーパーマーケットのレジで、購入品のチェックを受けていた。
すぐそばの精算機の前で、「日本人は、どうしてこんなに真面目なんだろうね」と、言う声がした。
レジの操作をしている中年女性が、「外したいんですけど、上からのお達しで」と相槌をうつ。
さらに、その客は、「この辺で、外してる人、初めて見た」という。
声のするほうを見ると、高齢の男性で、マスクをしていない。
つまり、彼の横にいるマスクをしていない私を含めての会話だった。
適当に、笑い返しておく。
レジの女性は、「私たちも外したいんですけどねぇ」と、そつなくあしらう。
外に出ると開花したばかりの桜や、新緑の木々がつやつやと光っている。
清々しい空気の中に、ミモザの花の香りもする。
行き交う人たちは、マスクをつけたままである。
私たちは、安心安全という動物園の中で飼育されている。
野生の感覚はもう戻らない。