愚痴

亡き母は、極貧、父の癇癪に耐え、激することなく淡々と、何事も工夫して暮らしていた。

それでも、二人の娘(私の姉たち)が自活したあと、伯母(母の姉)にこんな話をしていた。

「この子を(幼かった私)連れて家を出て、旅館の住み込みでもしようかしら」

伯母は、「亡くした子の代わりにこの子を育てるから、連れて行かないで。二人とも苦労するだけだから」と答えた。

伯母には二人の娘があったが、下の子どもを亡くしていた。

 

母と旅に出られることが嬉しくて、私はわくわくした。

家に戻ってから、「嫌なことがあっても平気だから、連れて行ってね」と頼んだ。

 

母の夢は実現しなかった。

後に、姉たちにこの話をしたら、「それは、愚痴なの。お母ちゃんは言ってみただけ」と、苦笑した。

 

やらないんなら言わなきゃいいのにと私は憤慨した。

 

専業主婦だが、若い頃は、時々、バイトをした。

仲間は、盛んに悪口を言い合い、愚痴もたっぷり語り合っていた。

どうしようもないことを話しても仕方がないだろうと、私は黙っていた。

しかし、私はバイトが長続きせず、悪口や愚痴を沢山言っている人は辞めなかった。

 

孫娘は、特養で5年間働き、「ほかのこともやってみようかな」と、この期末で退職する。

3月末で仕事はお終いだと思っていたら、「有休を2か月に振り分けて、休み休み、4月末まで行くよ。ひと月分得だから」と。

彼女は、のんびり屋さんで、愚痴も悪口も言わず、ほんわかと笑っている。