謝らないでっ!

「謝らないでっ!」

昨日、いつもよりさらに激しい口調で娘から言われた。

彼女は、中学二年の夏休みに茶髪にしたのをきっかけに、いわゆるマイルドヤンキーへの道を突っ走った。

50歳になった今も、近しい者に対しては口調が荒い。

 

あらゆる場面で、トラブルを避けて先に謝るわたしの態度は、彼女にしてみれば腹立たしいのだろう。

極論を言えば、ごめんで済むなら警察はいらないということだ。

言い訳がましい、下手に出て逃げるのは卑怯だということでもある。

私には想像もできない世界で修羅場をくぐり、深く傷ついて、それでも生き延びてきた娘の怒りは、根底に悲しみがある。

 

耳も目もどんどん衰えていく夫は、失敗をするたびに、「見えないもんだから」と気弱に苦笑する。

言い訳はいらないと心の中で舌打ちする私も、娘のビョーキに感染しているのかもしれない。

 

外出先での出来事。

駅前のデッキから街に出る階段の脇のエレベータのボタンは、奇妙に低い位置にあり、わかりずらかった。

エレベーターのボタンが見つからなかったおばあさんが、すぐわきに立っていた彼女よりは若く見えるおじいさんに、「90過ぎたもんですから」と、ヘラヘラ笑いながら言った。

「いやー、お元気ですねぇ」と、おじいさんは愛想よく応対した。